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「新喜皮革のコードバン」「ホーウィンのシェルコードバン」「レーデルオガワの水染め」。
コードバンの財布を探していると、同じ「コードバン」なのに、知らない作り手の名前がいくつも並びます。どれも良さそうに見えて、値段もそれなりに違う。
何がどう違うのか分からず、その場で手が止まる。私も、最初の一点を選ぶときにそうでした。
コードバンは、削り出し・磨き・染めという工程の一つひとつを、作り手が手仕事で仕上げます。だから同じ馬のお尻の革でも、誰が仕立てたかで、艶の質も、丈夫さも、扱いやすさも変わってきます。
この記事では、日本と海外を代表する3つの作り手——新喜皮革・レーデルオガワ・ホーウィンの違いを、素材の背景と所有者の実感の両側から整理します。
読み終えるころには、自分がどの作り手のコードバンに惹かれるのかが、自分の言葉で見えているはずです。良い面だけでなく、それぞれの弱点も正直に書きます。
コードバンの代表的なタンナーは3つ|違いを先に一言で

先に一言でまとめると、押さえておきたいのは新喜皮革・レーデルオガワ・ホーウィンの3つです。持ち味は、こう分かれます。
新喜皮革は、日本で鞣(なめ)しから一貫生産する「素材の本家」。オイルの潤いがあり、丈夫で育てやすい。レーデルオガワは、その革を水染めで仕上げる「透明感の名手」。
鏡のような艶と鮮やかな発色が持ち味です。ホーウィンは、アメリカ生まれの「シェルコードバン」。オイルをたっぷり含んだ、重厚でしなやかな革です。
ひとつだけ、先に整理しておきたいことがあります。この3つは並べて語られますが、じつは役割が同じではありません。新喜皮革とホーウィンは革を鞣す「タンナー」。
一方のレーデルオガワは、鞣しではなく染めと仕上げを専門にする「フィニッシャー」です。ここを分けて見ると、3社の関係がぐっと分かりやすくなります。まずは表で全体像をつかんでください。
| 作り手 | 拠点・役割 | 仕上げの持ち味 | 質感の傾向 |
|---|---|---|---|
| 新喜皮革 | 兵庫県姫路市/鞣し(タンナー) | オイルコードバン(芯通し染め) | しっとり潤い・丈夫・艶が育つ |
| レーデルオガワ | 東京近郊/仕上げ専門(フィニッシャー) | 水染めコードバン(アニリン染め) | 透明感・鏡面の艶・鮮やかな発色 |
| ホーウィン | 米国シカゴ/鞣し(タンナー) | シェルコードバン | 重厚な艶・しなやか・ラフな味 |
この後、それぞれを一つずつ掘り下げます。まず「そもそもタンナーとは何か」から入ると、違いの理由がすっと入ってきます。
そもそもタンナーとは?なぜ作り手で表情が変わるのか
タンナーとは、動物の皮を「革」に変える鞣しを行う作り手のことです。生の皮は放っておけば傷みますが、鞣すことで長く使える革になります。
この鞣しの技術と個性が、革の性格を決めます。
コードバンの場合、話はもう一段複雑です。コードバンは、馬のお尻の内側にある緻密な層を、革の裏面から少しずつ削り出して作ります。
この削り出しに加えて、めのうの玉で表面を圧縮して艶を出す「グレージング」、そして色を入れる「染め」。その一つひとつが職人の手仕事で、力の入れ方や時間のかけ方で、仕上がりがまるで変わります。
さらに知っておきたいのが、「鞣し」と「仕上げ」は別の工程だという点です。鞣した状態の革はクラストと呼ばれ、これを別の作り手が染めて磨き上げることもあります。
まさにこれをしているのがレーデルオガワです。だから3社を横並びにするときは、「鞣すタンナー」と「仕上げるフィニッシャー」を分けて見るのが正確です。
この視点を持つだけで、コードバン選びの解像度が一段上がります。
新喜皮革のコードバンとは?日本で唯一の一貫生産
新喜皮革は、兵庫県姫路市にある馬革専業のタンナーです。1951年の創業で、原皮を仕入れて鞣し、コードバンに仕上げるまでを国内で一貫して行う、日本でも唯一といわれる存在です。
姫路は古くからの革の名産地で、その技術が凝縮しています。
特徴は、時間をかけたタンニン鞣しです。ミモザなどの樹皮から採った成分を使い、ピット槽と呼ばれる槽に漬け込んで、繊維の芯までじっくり浸透させていきます。
原皮からコードバンが完成するまでにかかる期間は、およそ10か月。クロム鞣しの馬革が1か月弱で仕上がるのに対して、コードバンは桁違いに手間と時間がかかる革だと分かります。
オイルコードバンの質感|潤いと丈夫さ
新喜皮革のコードバンで広く使われているのが、オイルコードバンです。革の芯まで色を入れる「芯通し」で染め、オイルを含ませ、最後にグレージングで艶を出します。
芯まで染まっているので、多少の擦り傷なら色が下から出てきにくい。オイルの潤いがあるぶん、しっとりして扱いやすいのも持ち味です。
国産の名の通ったブランドの多くが、この新喜皮革のコードバンを採用しています。使い始めは少し硬いものの、手の脂と時間で角から艶が差し、育てる楽しみがしっかりある。
潤いがあるぶん、水染めに比べれば日常の扱いに神経質になりすぎずに済みます。国産コードバンの「王道」を知るなら、まずここが基準になります。
レーデルオガワのコードバンとは?水染めが生む透明感
レーデルオガワは、東京近郊で40年以上にわたりコードバンだけを手がけてきた、仕上げ専門のフィニッシャーです。
前述のとおり、自分たちで鞣すのではなく、新喜皮革をはじめとする国内タンナーが鞣したクラストを仕入れ、そこに油を入れ、めのうでグレージングし、水染めで色を重ねていきます。
コードバン専門のフィニッシャーは、世界でもここだけともいわれます。
代名詞が「水染めコードバン」です。顔料を表面に吹き付けるのではなく、水に溶いた染料に革を浸し、色を何層も重ねていく。
革の力だけで艶を出すことにこだわり、ウレタンやエナメルのような疑似的なコーティングを使いません。だからこそ、吸い込まれるような透明感と、光を通す鮮やかな発色が生まれます。
この透き通った質感は、世界的にも高く評価されています。
ここで一つ、素材の流れが見えてきます。新喜皮革が鞣した革を、レーデルオガワが水染めで仕上げる。そしてその革を、レーデルオガワ自身が財布や小物にまで仕立てて世に出しているブランドがあります。
素材の作り手による直営ブランド、UNIQUEON(ユニコーン)です。誰が鞣し、誰が仕上げ、誰が仕立てたかが最初から最後まで見える——コードバン好きにとって、これは大きな安心材料になります。
水染めコードバンの弱点も正直に
美しさには代償もあります。水染めコードバンは、革の表面にほとんどコーティングを施していません。そのぶん、水分が直接繊維に入り込みやすく、雨や汗のしずくがシミや水ぶくれ(ブク、と呼ばれます)になることがあります。
折り曲げる部分も、オイルや顔料仕上げに比べれば繊細です。
つまり、透明感と引き換えに、少し手をかけて付き合う革だということです。雨の日は鞄の内側にしまい、濡れたら乾いた布でそっと押さえる。
この一手間を「面倒」ではなく「育てる時間」と感じられる人に、水染めは深く応えてくれます。逆に、まったく気を遣わずに使いたい人には向きません。
ホーウィンのシェルコードバンとは?米国生まれの重厚な艶

ホーウィンは、アメリカ・シカゴにある1905年創業のタンナーです。現在は5代目が受け継ぐ同族経営で、北米で唯一ともいわれるシェルコードバンの作り手として世界的に知られています。
「シェル」は貝殻の意味で、その名の通り、貝殻のように重厚で深い光沢が持ち味です。
製法の核は、植物タンニン鞣しと、たっぷり時間をかけたオイルの浸透です。仕上がるまでの期間は、およそ6か月から8か月。
長い時間をかけてオイルを芯まで入れることで、本来は硬いコードバンが、しなやかで強靭な革に変わります。オイルが潤沢なので、折り曲げてもカサつきにくく、手に取るとしっとりと重みを感じます。
購入からしばらくはクリームも要らず、乾拭きだけで艶を保てるほどです。
アメリカらしい「ラフな味」
ホーウィンのコードバンは、日本の水染めのような均一な美しさとは方向が違います。表面には、ピンホールと呼ばれる小さな穴の跡や、血筋のような模様がうっすら残ることがあります。
これは欠点ではなく、天然の革を染料で仕上げている証。ムラのある表情そのものを「味」として楽しむ革です。
正直に書くと、均一で端正なものを求める人には、この個体差は好みが分かれます。一方で、使い込むほどに現れる無骨な陰影に惹かれる人には、これ以上ない相棒になります。
希少な革で、時期によっては入手しづらいことも、あらかじめ知っておきたい点です。
3つのタンナーはどう選ぶ?暮らし方と好みで決める
どれが一番かではなく、自分の暮らし方と好みに合うのはどれか。この視点で選ぶと迷いません。目安はこうです。
透明感のある鮮やかな艶で、人と被らない一点がほしいなら、レーデルオガワの水染め。潤いと丈夫さのバランスが良く、国産の育つ艶を気負わず楽しみたいなら、新喜皮革のオイルコードバン。
重厚でラフな味わいと、アメリカの空気をまといたいなら、ホーウィンのシェルコードバン。手をかける手間の許容度で選ぶのも一つで、いちばん気を遣うのが水染め、比較的おおらかに使えるのがオイルとホーウィン、という並びになります。
| こんな人へ | 向く作り手 | 理由 |
|---|---|---|
| 透明感と鮮やかな発色で人と差をつけたい | レーデルオガワ(水染め) | 疑似コーティングなしの鏡面の艶 |
| 潤いと丈夫さ・国産の王道を気負わず | 新喜皮革(オイル) | 芯通し染めで扱いやすく育てやすい |
| 重厚でラフな味を長く育てたい | ホーウィン(シェル) | 潤沢なオイルでしなやか・強靭 |
選び分けに迷ったら、素材の素性がいちばん見える一点から入るのがおすすめです。
前述のとおり、新喜皮革が鞣し、レーデルオガワが水染めで仕上げ、そのままレーデルオガワが製品に仕立てるという一本の流れは、コードバンの世界ではとても珍しいもの。
どこの誰がどう作ったかを全部たどれる安心は、長く使う一点だからこそ効いてきます。現行の色や艶を眺めるだけでも、ここまで読んだ話が自分ごととして立ち上がってきます。
コードバンのタンナーについてよくある質問
Q. レーデルオガワはタンナーではないのですか?
厳密には、鞣しを行うタンナーではなく、染めと仕上げを専門にするフィニッシャーです。新喜皮革などが鞣したコードバン(クラスト)を仕入れ、水染めやグレージングで仕上げています。
「タンナー比較」の文脈で並べて語られることが多いですが、役割が違う点を知っておくと選びやすくなります。
Q. 新喜皮革とホーウィンは、どちらが扱いやすいですか?
どちらもオイルを含んで扱いやすい部類ですが、性格が違います。新喜皮革のオイルコードバンは芯通し染めでしっとり潤い、国産らしい端正な艶。
ホーウィンはオイルがより潤沢でしなやか、ラフで重厚な表情です。均一な美しさなら新喜皮革、無骨な味ならホーウィンが好みに合いやすいでしょう。
Q. 水染めコードバンは手入れが難しいですか?
表面のコーティングが薄いぶん、水濡れには気を配る必要があります。とはいえ、雨の日は鞄の内側にしまう、濡れたら乾いた布で押さえる、といった基本を守れば、日常使いで神経質になりすぎることはありません。
透明感の代償として、少し手をかける革だと考えてください。
Q. どのタンナーのコードバンが手に入りやすいですか?
国産の新喜皮革のコードバンは多くのブランドが採用しているため、比較的探しやすい素材です。ホーウィンのシェルコードバンは希少で、時期により品薄になります。
レーデルオガワの水染めは、本家であるレーデルオガワ直営のUNIQUEONなどで、素性のはっきりした一点を選べます。
まとめ|作り手を知ると、コードバンはもっと面白い

同じ「コードバン」でも、鞣す新喜皮革、水染めで仕上げるレーデルオガワ、シェルコードバンのホーウィンでは、艶も丈夫さも扱いやすさも違います。
どれが上という話ではなく、自分の好みと暮らし方に合う作り手を選ぶことが、長く付き合える一点への近道です。
透明感で選ぶならレーデルオガワ、潤いと丈夫さなら新喜皮革、重厚な味ならホーウィン。
そして、素材の素性を最初から最後までたどれる安心を大切にするなら、鞣し・仕上げ・仕立てが一本につながった一点が、いちばん心強い選択になります。
数年後、深い艶をまとった財布を、当たり前の所作の中で取り出している自分を想像してみてください。作り手の物語ごと手元に置けるのが、コードバンという革の面白さです。
気になった作り手の現行ラインを、一度その目で確かめてみてください。
コードバンそのものをもっと知りたい方はコードバンとは?の記事、財布の選び方はコードバン財布の選び方もあわせてどうぞ。
