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コードバンは、育てて楽しむ革だと言われます。ただ、その言い方には落とし穴があります。育つ方向を間違えると、元に戻せないからです。
私は水染めコードバンの二つ折り財布を4年7か月使っています。この記事では、自分の財布を見ながら、失敗が起きる原因を5つに整理しました。あわせて、起きてしまったあとに何ができるかも書きます。
そもそも、コードバンのエイジングとは

先に仕組みを押さえておくと、失敗の理由が分かりやすくなります。
コードバンは、馬のお尻の皮の内側にある繊維の層を削り出して作ります。表面の皮を削って中から出てくる層なので、毛穴がありません。あの独特の艶は、この緻密な繊維を磨き上げて出しています。
使っていくと、手の油と摩擦で表面が少しずつ整い、色が深くなって光の反射が柔らかくなります。これが良い方向のエイジングです。
問題は、繊維がむき出しだということ
毛穴がないぶん、コードバンには逃げ道がありません。牛革なら毛穴から水分や油が出入りしますが、コードバンにはそれがない。
だから、外から余計なものが入るとそのまま残ります。水も、油も、熱も。これがコードバンの失敗が「戻らない」理由です。
革そのものの性質はコードバンとは?にまとめてあります。仕上げごとの育ち方の違いはコードバンの経年変化で扱っています。
失敗①|クリームを塗りすぎる
いちばん多いのが、これだと思います。しかも、良かれと思ってやってしまいます。
革は乾燥するとひび割れる。だからクリームを塗る。ここまでは正しいのですが、コードバンで同じ量を塗ると、表面が曇ります。
なぜ曇るのか
毛穴がないので、塗ったクリームが革に入りきりません。入らなかったぶんは表面に残り、白っぽい膜になります。磨いても取れにくく、艶が濁って見えます。
私が塗っているのは、米粒くらいの量を2か月に1回。指に取ってごく薄く伸ばすだけです。それで4年半、乾燥で困ったことは一度もありません。
| やりがちなこと | 実際に必要な量 | |
|---|---|---|
| 量 | 布にたっぷり取る | 指先に米粒ほど |
| 頻度 | 月に1回以上 | 2〜3か月に1回 |
| 塗り方 | 全体に厚く | 薄く伸ばして終わり |
もう曇ってしまったら
乾いた布で、力を入れずに何度も乾拭きしてください。表面に浮いたクリームは、時間をかければある程度は落ちます。それでも取れないときは、無理をせず革製品の修理を扱う店に相談するほうが安全です。
失敗②|水に濡らす

これが、いちばん戻らない失敗です。
水がかかると、その部分の繊維が膨らみます。乾いたあとに輪ジミや細かい凹凸として残り、周りと質感が変わってしまいます。
私の財布も、一度だけ雨に濡らしたときに角の色が薄く抜けました。4年半で唯一、はっきり後悔している出来事です。
多くのブランドが防水加工をしていない理由
素材の風合いを残すためです。加工で表面を覆うと、コードバン特有の艶と手触りが失われます。だから作り手はあえて何もせず、「濡らさない」を使う側の前提にしています。
濡れたときの手当てはコードバンが水に濡れたらどうする?に手順で書きました。要点だけ言うと、こすらず押さえ拭きして、陰干しです。ドライヤーは絶対に使わないでください。
失敗③|直射日光と熱にあてる
これは、失敗している自覚がないまま進むので厄介です。
革は日光で色が変わります。コードバンも同じで、当たった面だけ色が抜けたり、逆に濃くなったりします。財布を机の上に置きっぱなしにしていると、窓側だけ色が違ってくることがあります。
熱はもっと直接的です。夏の車内、暖房の吹き出し口、ドライヤー。革の中の油分が抜けて硬くなり、そこからひび割れにつながります。
置き場所を決めるだけで防げます
使っていない時間の置き場所を、日の当たらない場所に決める。それだけで、この失敗はほぼ起きません。引き出しでも、鞄の中でも構いません。
失敗④|大事にしすぎてしまい込む
ここが、いちばん切ない失敗です。
高い財布を買って、傷を付けたくないから使わない。箱にしまったまま、たまに眺めるだけ。気持ちは分かりますが、革にとっては最悪の扱いになります。
使わない革は、育たずに傷みます
エイジングは、手の油と摩擦で進みます。使わなければ油が入らず、革は乾いていくだけです。
さらに、閉め切った引き出しに長く入れておくと湿気がこもり、カビの原因になります。革にとっては、毎日使われているほうがずっと健康です。
もし長く使わない時期があるなら、箱から出して風通しのよい場所へ。詰め物をして形を保ち、月に一度は取り出して空気に当ててください。
失敗⑤|何もしないまま4年経つ
④の逆で、こちらは毎日使う人に起きます。
ポケットに入れて出し入れするうちに、角が擦れ、折り目の縁の色が剥げてきます。ここまでは避けられません。私の財布も、角と折り目の縁は色が薄くなっています。
問題は、そこで何もしないことです。剥げた部分から乾燥が進むと、次はひび割れになります。擦れは味ですが、ひび割れは劣化です。この境目を越える前に手を入れると、寿命が変わります。
やることは3つだけ
| いつ | やること |
|---|---|
| 使ったあと | 乾いた布でひと拭き |
| 2〜3か月に1回 | クリームを薄く |
| 濡れたとき | 押さえ拭きして陰干し |
これだけです。手順の詳しい話はコードバンのお手入れ方法にまとめました。
正直に言うと、失敗の多くは「仕上げ違い」から来ています

ここまで5つ挙げましたが、根っこには共通の原因があります。自分の財布がどの仕上げなのかを知らないまま手入れをしていることです。
同じコードバンでも、仕上げによって性質が変わります。
| 仕上げ | 見た目 | 手入れの向き |
|---|---|---|
| 水染め | 鏡のような鋭い艶 | クリームは控えめに |
| オイル仕上げ | しっとり柔らかい光り方 | 油が多いので回数は少なくて足りる |
| アニリン染め | 透明感のある発色 | 色移りに注意 |
| 顔料仕上げ | 均一な色 | 表面に膜があり水に比較的強い |
オイル仕上げのシェルコードバンに、水染め用のつもりでクリームをたっぷり塗れば、当然のように曇ります。逆に、顔料仕上げに神経質になりすぎる必要もありません。
買ったブランドの公式ページで、自分の革がどの仕上げかを確かめてください。そこが分かれば、5つの失敗のうち3つは自動的に避けられます。
たとえばコードバンの仕上げを手がける職人が立ち上げたUNIQUEONは、コードバンとはとコードバンのお手入れについてのページを別に用意しています。作り手が出している手入れの案内があるなら、まずそれに従うのがいちばん確かです。
4年7か月使って、私の財布がどうなったか
失敗の話ばかりだと不安になると思うので、実際の財布について紹介します。
色は買ったときより明らかに深くなりました。内側のヌメ革も濃くなって、外と内で色が揃ってきています。光の反射は、新品のときの鋭さから、柔らかいものへ変わりました。
一方で、折り目の縁は色が剥げ、角は少しスレています。一度濡らした角は、いまも周りと色が違います。
やってきたのは、2か月に1回クリームを米粒ほど塗ること。それだけです。特別な道具は買っていません。手をかけすぎないことが、コードバンでは正解でした。
失敗している人と、うまくいっている人の分かれ目
ここまで原因を並べてきましたが、実際に両者を分けているのは、もっと手前のところにあります。
「育てる」を作業だと思っているかどうか
うまくいかない人ほど、エイジングを工程として捉えています。何か月目に何を塗る、道具は何を揃える、といった具合です。
ところがコードバンで艶を育てているのは、道具ではなく毎日の摩擦と手の油です。ポケットから出し入れする、レジで開く、机に置く。その繰り返しがいちばん効きます。手入れは、その邪魔をしないためにやるものだと考えると、量も頻度も自然に減ります。
変化を「記録」しているかどうか
もうひとつの差は、写真を撮っているかどうかです。
革の変化はゆっくりなので、毎日見ていると気づきません。半年前の写真と並べて初めて、色が深くなったと分かります。逆に、乾いてきたことや剥げが広がったことにも、比べて初めて気づけます。
買った日に1枚撮っておく。それだけで、手を入れるべき時期が見えるようになります。特別なことではありませんが、やっている人は失敗しにくいものです。
不安を放置していないかどうか
気になる箇所ができたとき、すぐ調べる人と、見て見ぬふりをする人がいます。
コードバンの傷みは、初期のうちなら手当てが効きます。曇りは乾拭きで薄くなり、乾燥はクリーム1回で止まります。放置して数か月経ったものは、そうはいきません。気づいた日に5分だけ手を入れる。これが最大の防ぎ方です。
買う前に知っておくと、失敗が減ること
内装の革は別の育ち方をします
コードバンは高価なので、内側には牛のヌメ革を合わせるブランドがほとんどです。外と内で素材が違うため、育つ速さも変わります。
数年経つと色の差が出ますが、これは失敗ではありません。そういうものです。外も内も揃えたい方は、内装までコードバンを使ったモデルを選ぶ必要があり、価格は一段上がります。
個体差は最初からあります
コードバンは天然の革なので、同じ型でも表情が違います。届いたときに写真と少し違っても、不良ではありません。
むしろ、その差が数年後には自分だけの1点になります。均一さを求める方には、そもそもこの革は向きません。
迷ったら、水に強い仕上げを選ぶ
外回りが多い、雨の日も持ち歩く。そういう暮らしなら、水染めより顔料仕上げのほうが気楽です。あるいは素材そのものを変える手もあります。判断の分かれ道はコードバンとブライドルどっち?に書きました。
季節ごとに、気をつける相手が入れ替わります
1年を通して同じ手入れをしていればいい、というものでもありません。困る相手が季節で変わります。
| 季節 | いちばんの敵 | やること |
|---|---|---|
| 春・秋 | とくになし | ふだんどおりの乾拭き |
| 梅雨 | 湿気とカビ | 鞄の中に入れっぱなしにしない |
| 夏 | 汗と車内の熱 | 車に置き忘れない。汗が付いたら拭く |
| 冬 | 乾燥と暖房 | 吹き出し口の前に置かない |
とくに見落とされがちなのが夏の車内です。閉め切った車の中は真夏に60度を超えることがあります。革にとっては、ドライヤーを当て続けているのと変わりません。ダッシュボードに財布を置いたまま買い物へ行く。これだけで、数年ぶんの乾燥が一気に進みます。
コードバンのエイジングについてよくある質問
Q. 失敗したらもう直せませんか
程度によります。クリームの曇りは乾拭きで薄くなることがあります。浅い擦り傷も、指の腹で撫でると目立たなくなる場合があります。ただし水ジミと深いひび割れは、自分ではほぼ戻せません。
Q. どのくらいで変化が分かりますか
半年ほどで色が深くなり始めます。1年で艶の質が変わり、3年で別物と言える表情になります。私の実感でもこの通りでした。
Q. 傷が付いたら失敗ですか
いいえ。擦れや小さな傷は、コードバンでは味として受け止められる範囲です。傷の詳しい話はコードバン財布は傷だらけになる?にあります。
Q. ブラシは使ったほうがいいですか
馬毛の柔らかいブラシなら、ほこりを払うのに向きます。ただし力を入れて磨く必要はありません。乾いた布で足ります。
Q. 財布とベルトで手入れは変えますか
ベルトのほうが曲げ伸ばしが激しく、汗にも触れます。乾拭きの頻度は上げたほうが安心です。
Q. 防水スプレーをかけてもいいですか
コードバン専用と明記されたものでなければ、やめておいたほうが無難です。革用と書かれていても、想定しているのが起毛革や普通の牛革であることが多く、コードバンの艶が曇る恐れがあります。まずは持っているブランドの公式に問い合わせるか、公式が出しているケア用品を使ってください。
Q. 中古で買ったものも育ちますか
育ちます。ただ、前の持ち主の使い方がそのまま残っているので、まずは状態を見るところからです。乾いているようならクリームを1回、薄く入れてください。すでにひび割れているところは、残念ながら戻りません。
Q. エイジングが早い革はどれですか
コードバンの中で比べるなら、オイルを多く含んだ仕上げのほうが変化を早く感じます。ただ、早ければいいというものでもありません。ゆっくり変わる革のほうが、長く楽しめるとも言えます。
まとめ|手をかけすぎない人が、うまく育てています
5つの失敗を並べてきましたが、共通しているのは同じことでした。コードバンは、放っておいても、構いすぎても失敗します。
使ったあとに拭く。数か月に一度、薄くクリームを塗る。濡らさない。日に当てない。しまい込まない。書き出すとこれだけで、どれも数十秒で終わります。
いちばん時間がかかるのは、実は手入れではありません。自分の革がどの仕上げなのかを調べる、最初の5分です。そこさえ済ませれば、あとはずっと同じことの繰り返しになります。
私の財布も、この繰り返しだけで4年半を越えました。角は擦れ、一度濡らした跡も残っています。それでも、買ったときより今のほうが気に入っています。
これから買う方は、まず自分が選ぼうとしている革がどの仕上げなのかを、公式で確かめるところから始めてください。そこを間違えなければ、5年後の財布はきっと気に入るものになります。
