雨の降る駅前で、上着の内ポケットに手をやったことがあります。財布を入れたまま傘を差しそこねた日でした。コードバンは水に弱いと聞いていたので、帰るまで気が気ではありませんでした。
結果から言えば、その財布は今も手元にあります。ただ、心配した気持ちのほうは正しかったと思っています。コードバンには確かに弱点があります。
弱点は大きく4つです。水・傷・価格・入手性。このうち本当に困るのは1つだけで、残りは付き合い方で収まります。順に見ていきます。
コードバンのデメリットは4つに集まる

コードバンは馬のお尻から採れる革の層です。繊維がぎゅっと詰まっていて、表面を磨くと鏡のような艶が出ます。その詰まり方が、長所と短所の両方を生んでいます。
1. 水に弱い(本当に困る弱点)
これが最大の弱点です。水滴がつくと、その部分だけ繊維が膨らんで小さな凸凹になります。いわゆる水ぶくれです。
乾けば多くは目立たなくなります。ただ、濡れたまま強くこすると跡が残ります。慌てて拭き取るのが、いちばんやってはいけない対応です。
正しくは、乾いた布で押さえて水気を吸わせ、そのまま陰干しします。ドライヤーの熱は縮みのもとになるので使いません。
2. 傷とへこみが目立ちやすい
表面が平らで艶があるぶん、線傷が光の加減で見えます。牛革のシボ(細かい凹凸)がある革なら隠れる傷も、コードバンでは分かります。
ただし浅い傷は、指の腹でしばらくなでると馴染むことがあります。私の財布にも買った週につけた傷がありますが、今はどこだったか思い出せません。
困るのは深いへこみです。角をぶつけると跡が残ります。これは戻りません。
3. 価格が高い
同じ形の財布でも、牛革の2倍前後の価格になることが珍しくありません。理由は原皮の量です。
馬1頭から採れるコードバンは、お尻の左右2枚だけです。しかも仕上げに数か月かかります。数が限られ、手間もかかるので、価格に跳ね返ります。
4. 欲しい色や形がすぐ手に入らない
受注生産や入荷待ちが当たり前の世界です。決めてから届くまで数か月ということもあります。
今すぐ必要な人には向きません。逆に、次の財布を半年先の楽しみにできる人には、待つ時間も含めて悪くない買い物になります。
| 弱点 | どのくらい困るか | 対処できるか |
|---|---|---|
| 水に弱い | 大きい | 雨の日に持ち出さない・濡れたら押さえて陰干し |
| 傷が目立つ | 中くらい | 浅い傷はなでると馴染む・深いへこみは戻らない |
| 価格が高い | 買う時だけ | 使う年数で割ると印象が変わる |
| 入手しにくい | 小さい | 買い替え時期の半年前から探す |
弱点の出方は仕上げの種類で変わる
ここまで「コードバン」とひとくくりに書いてきました。実際には仕上げ方に種類があり、弱点の出方も変わります。
| 仕上げ | 見た目 | 水への強さ | 傷の目立ちやすさ |
|---|---|---|---|
| 水染め | 色が澄んで透明感がある | 弱め | 目立ちやすい |
| オイル仕上げ | しっとりして深い | やや強い | やや目立ちにくい |
| シェル(輸入・オイル系) | 厚みがあり艶が強い | やや強い | やや目立ちにくい |
水染めは、革の内側まで染料を入れて色を出す方法です。表面に膜を作らないので、色が澄んで見えます。そのぶん水滴の跡が出やすくなります。
オイルを含ませた仕上げは、革の中に油分が入っています。水をはじく力が少し強くなり、傷も油分で馴染みやすくなります。
透明感のある色が好きなら水染め、扱いやすさを取るならオイル系。この選び方で、日々の気の使い方がだいぶ変わります。
他の高級革と並べると位置がはっきりする
コードバンだけを見ていると、弱点が大きく感じます。他の革と並べると、どこが特別なのかが分かります。
| 革 | 強み | 弱み | 手入れの手間 |
|---|---|---|---|
| コードバン | 艶・薄さ・耐久 | 水・価格・入手性 | 少ない(布でなでる程度) |
| ブライドルレザー | 硬く形が崩れない | 重い・最初は硬い | 少ない |
| ヌメ革 | 色の変化が大きい | 傷とシミが付きやすい | 多め(日焼け・油分の補給) |
| 牛革(型押し) | 安価・傷が隠れる | 変化が乏しい | ほとんど不要 |
水に弱いのはヌメ革も同じです。むしろヌメ革のほうがシミは残りやすいと言われます。
コードバンの弱点として語られる「水」は、高級革に共通する性質でもあります。特別に神経質になる必要はありません。
弱点を知ったうえで、それでも選ばれる理由

弱点を並べたので、良い面も同じ量だけ書きます。ここを読まないと判断がかたよります。
艶が他の革と違う
表面をなでると、光がすっと流れます。塗って出した光沢ではなく、繊維を寝かせて磨いた光です。近くで見るほど差が出ます。
会計のときに財布を出す。その一瞬に、静かな艶があります。派手ではないのに、目に留まる質感です。
薄いのに丈夫
繊維が詰まっているので、薄く漉いても腰が残ります。牛革で同じ薄さにすると、へたって形が崩れがちです。
だから薄い財布でも角が立ちます。ポケットに入れたときの収まりが、はっきり違います。
育ち方に面白みがある
使っているうちに色が深まり、手の当たる場所から艶が増します。最初の1年は変化がゆっくりで、2年目から表情が出てきます。
変化の詳しい流れはコードバンの経年変化にまとめています。
弱点と付き合う3つの習慣
対処法は難しくありません。3つ覚えれば十分です。
- 雨の日は別の財布にする。これがいちばん効きます。梅雨と台風の時期だけ、牛革の財布に替える人は多いです。
- 濡れたらこすらない。乾いた布で押さえ、風通しのよい場所で自然に乾かします。
- 乾いた布で月に一度なでる。クリームは年に1〜2回で足ります。塗りすぎると艶がくもります。
手順の詳細はコードバンのお手入れ方法で解説しています。道具は布1枚から始められます。
もうひとつ、仕上げの種類で弱点の出方が変わります。水染めコードバンは色が澄んでいるぶん水シミが出やすく、オイルを含ませた仕上げは水に少し強くなります。作り手による違いはコードバンのタンナー比較で整理しました。
【UNIQUEON-ユニコーン-】向く人・向かない人

弱点が許せるかどうかで、答えははっきり分かれます。
| 向く人 | 向かない人 |
|---|---|
| 一つを長く使いたい | 1〜2年で気分を変えたい |
| 革の変化を見るのが好き | 買った日の状態を保ちたい |
| 雨の日は持ち出さない選択ができる | 外仕事で天候を選べない |
| 薄くて形の崩れない財布が欲しい | とにかく安く済ませたい |
「買った日の状態を保ちたい」に当てはまる方は、正直に言うと避けたほうが幸せです。コードバンは変わる革だからです。
逆に、変わることを楽しめる方には長い相棒になります。形の選び方は二つ折り財布のおすすめと長財布の選び方にまとめています。
買う前に見ておきたい3か所
店頭で手に取れるなら、次の3か所を見てください。ここで作りの差が出ます。
- 光の反射の仕方。傾けたときに、艶が面でついてくるものは磨きがていねいです。部分的にくもるものは仕上げが浅くなっています。
- コバ(革の切り口)。丸く磨いてあるか、断面がざらついていないかを見ます。ここは使ううちに真っ先に傷む場所です。
- 内側の革。外だけコードバンで、内側が薄い合皮という商品もあります。開いて確かめてください。
通販で買う場合は、商品説明にタンナー名が書いてあるかが目安になります。書けるということは、素性がはっきりしているということです。
タンナーごとの性格はコードバンのタンナー比較で並べています。
10年使うと費用の見え方が変わる
価格が高いという弱点は、使う年数で割ると印象が変わります。
| 選び方 | 買い替えの間隔 | 10年でかかる本数 |
|---|---|---|
| 安価な合皮・型押し | 2年ほど | 5本 |
| 一般的な牛革 | 4〜5年 | 2〜3本 |
| コードバン | 10年以上 | 1本 |
買うときの金額だけを見ると高く感じます。10年という単位で並べると、差はそこまで開きません。
そのうえ、5年目のコードバンは買った日より良い顔をしています。使うほど値打ちが下がる持ち物とは、逆の動き方をします。
よくある質問
雨に少し濡れただけでも駄目になりますか
駄目にはなりません。押さえて水気を取り、陰干しすれば多くは落ち着きます。避けたいのは、こすることと熱を当てることです。
水ぶくれが残ったら直せますか
浅いものは時間と手の脂で目立たなくなります。深いものは残ります。気になる場合は購入店に相談するのが確実です。
毎日使っても持ちますか
持ちます。むしろ毎日触るほうが艶は育ちます。傷むのは革より先に糸や金具なので、ほつれを見つけたら早めに直しに出してください。
最初の一つは何を選べばいいですか
財布から入る方が多いです。毎日手に取るぶん、変化がよく分かります。小物から試したい方にはキーケースの選び方も参考になります。
色は何色が扱いやすいですか
濃い色ほど水シミが目立ちにくくなります。黒や濃紺は日々の気遣いが軽く済みます。明るい色は変化が大きく、育てる楽しみが増えるかわりに気を使います。
修理には出せますか
糸のほつれや金具の交換は、多くの工房で受け付けています。革そのものの張り替えになると費用がかさむので、買った店で先に相談してください。
まとめ
コードバンの弱点は、水・傷・価格・入手性の4つです。本当に注意がいるのは水だけで、あとは付き合い方と考え方で収まります。
雨の日は別の財布にする。濡れたらこすらない。月に一度、乾いた布でなでる。この3つを守れば、10年先も手元に残ります。
買った日がいちばん美しい革ではありません。5年目のほうがいい顔をしています。その変化を待てる方に、コードバンは向いています。
そもそもコードバンとは何かを先に知りたい方は、コードバンとはからお読みください。長く使う前提での選び方はコードバンの財布は一生もの?で扱っています。
